動物病院の待合室で、去勢手術の見積書を見て「思ったより高い」と感じた飼い主は少なくないはずです。犬猫の去勢・避妊手術は全額自己負担が原則で、病院によって金額にかなりの差があります。
望まない繁殖を防ぐだけでなく、将来の病気リスクを下げる効果もある手術ですが、費用がネックで踏み切れないケースも。自治体や民間団体が提供する助成金を活用すれば、手術費用の一部をカバーできる場合があります。ただし「飼い猫のみ対象で犬は対象外」「野良猫向けのTNR助成を飼い猫と混同しやすい」など、制度の理解には注意点も多いのが実情です。
犬の去勢・避妊手術 — サイズ別の費用相場
犬の手術費用は体のサイズに大きく左右されます。全身麻酔を使うため、体が大きいほど麻酔量が増え、手術時間も長くなることが主な理由です。
| 手術内容 | 小型犬(〜10kg) | 中型犬(10〜25kg) | 大型犬(25kg〜) |
|---|---|---|---|
| オスの去勢手術 | 15,000〜25,000円 | 20,000〜35,000円 | 30,000〜50,000円 |
| メスの避妊手術 | 25,000〜40,000円 | 35,000〜50,000円 | 45,000〜70,000円 |
メスの避妊手術はオスの去勢より1万〜2万円高くなるのが一般的。開腹して卵巣や子宮を摘出する手術のため、手術時間は30分〜1時間と長く、術後の管理も慎重に行う必要があります。日帰りで行う病院もあれば1泊の入院を基本とする病院もあり、入院費(3,000〜5,000円/泊)の有無で総額が変わってきます。
フレンチブルドッグやパグなどの短頭種は麻酔リスクが高いため、術前検査が追加されたり手術費用が割増しになったりするケースも。同サイズの犬種と比べて5,000〜10,000円ほど上乗せされる病院もあるため、事前に確認しておきましょう。
猫の去勢・避妊手術 — 犬より費用がコンパクト
猫は犬に比べて個体間の体格差が小さいため、費用の幅もコンパクトにまとまります。
| 手術内容 | 費用の目安 | 手術時間 | 入院の要否 |
|---|---|---|---|
| オス猫の去勢手術 | 10,000〜20,000円 | 10〜20分 | 多くは日帰り |
| メス猫の避妊手術 | 20,000〜35,000円 | 30〜60分 | 日帰りまたは1泊 |
オス猫の去勢手術は切開部分が小さく、縫合不要で済むケースが大半です。手術時間も10〜20分程度と短く、午前中に預けて夕方には迎えに行ける病院がほとんど。費用面でも犬と比べるとかなり安く収まります。
メス猫の避妊手術は犬のメスと同様に開腹手術。腹腔鏡を使った低侵襲手術を行う病院も増えてきており、傷口が小さく回復が早い反面、費用は従来の方法より5,000〜15,000円ほど高くなります。
手術費用の内訳 — 見積もりで確認すべきこと
「手術費用」として提示される金額に何が含まれているかは、病院によってバラバラです。見積もり段階で内訳を確認しておくと、想定外の追加請求を防げます。
| 項目 | 手術費に含まれることが多い | 別料金になりやすい |
|---|---|---|
| 手術料 | ○ | - |
| 全身麻酔 | ○ | - |
| 術前血液検査 | △ | ○(3,000〜5,000円) |
| 術前レントゲン・心電図 | x | ○(3,000〜8,000円) |
| 入院費(1泊) | △ | ○(3,000〜5,000円) |
| 術後の痛み止め | △ | ○(1,000〜3,000円) |
| エリザベスカラー | △ | ○(1,000〜2,000円) |
| 抜糸(術後7〜10日後) | △ | ○(500〜1,500円) |
| 術後の再診料 | x | ○(1,000〜2,000円) |
術前血液検査は全身麻酔のリスクを評価するための検査で、肝機能や腎機能に問題がないかを確認します。多くの獣医師が推奨しているものの、手術費用とは別に3,000〜5,000円を請求する病院が多い傾向。
高齢の犬猫や持病がある場合は、レントゲンや心電図の追加検査が必要になることもあります。すべての検査費用を含めると、提示された手術費用に5,000〜15,000円が上乗せされる可能性がある点は覚えておいてください。
自治体の助成金制度 — 対象と金額の実態
一部の自治体が犬猫の去勢・避妊手術に助成金を出しています。ただし注意点がいくつかあります。対象が「飼い猫のみ(犬は対象外)」という自治体が大半で、「飼い主のいない猫(野良猫)」のTNR事業向け助成を飼い猫向けと混同しないよう気をつける必要があります。
飼い猫の助成がある自治体の例
| 自治体 | 猫(オス) | 猫(メス) | 備考 |
|---|---|---|---|
| 東京都品川区 | 8,000円 | 16,000円 | 区と獣医師会の合算。年2回募集・先着順 |
| 東京都渋谷区 | 5,000円 | 7,000円 | 飼い猫のみ。犬は対象外 |
| 東京都大田区 | 4,000円 | 8,000円 | 飼い猫のみ。犬は対象外 |
| 東京都世田谷区 | 3,000円 | 6,000円 | 飼い猫のみ。犬は対象外 |
| 東京都荒川区 | 3,000円 | 6,000円 | 飼い猫のみ。手術前の申請が必要 |
東京23区では飼い犬の去勢・避妊手術に対する助成制度を設けている区は確認できません(2026年4月時点)。品川区は区と獣医師会の合算でオス8,000円・メス16,000円と23区内では手厚い助成額ですが、各回オス40頭・メス55頭の先着順で、1世帯2頭までの制限があります。千代田区・北区・横浜市などは「飼い主のいない猫」対象のTNR事業向け助成のみで、飼い猫は対象外です。
犬猫両方が対象の自治体
| 自治体 | 犬(オス) | 犬(メス) | 猫(オス) | 猫(メス) | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| 名古屋市 | 4,800円 | 9,600円 | 3,150円 | 6,300円 | 市と獣医師会の助成合計額 |
| 京都市 | 5,000円 | 5,000円 | 5,000円 | 5,000円 | 犬猫一律。令和7年度から野良猫も対象に拡大 |
名古屋市は市の補助金と獣医師会の助成を合算した金額が上記のとおりです。犬猫の両方が対象で、飼い犬・飼い猫の手術費を助成する制度としては全国的にも充実しています。京都市は令和7年度(2025年度)から犬猫一律5,000円の制度を開始し、野良猫も対象に拡大しました。
制度を利用するときの注意
福岡市は飼い猫の不妊手術に一律7,500円(市と獣医師会の合計)の助成がありますが、年間200頭の抽選制で犬は対象外。大阪市にも猫の助成制度がありますが、対象は市民税非課税世帯でオスメス混在の3匹以上を飼育している場合に限られており、一般的な飼い猫の助成とは条件が異なります。
助成額や対象条件は年度によって変わる可能性があるため、お住まいの自治体の公式サイトで最新情報を確認してください。
申請の流れ
助成金の申請手続きは自治体ごとに異なりますが、「手術前申請型」と「手術後申請型」の2パターンがあります。手術前申請型が多数派で、手術の予約を入れる前に申請書を提出し、承認を受けてから手術を受ける流れです。手術後に申請しても受理されない自治体が大半なので、手続きの順序を間違えないよう注意が必要です。
| 必要書類 | 備考 |
|---|---|
| 助成金交付申請書 | 自治体窓口・HPで入手 |
| 狂犬病予防注射済票(犬の場合) | 登録済みの証明 |
| 動物病院の領収書・手術証明書 | 手術後に提出 |
| 本人確認書類 | 住民登録地の確認 |
| 振込先口座情報 | 助成金の振込先 |
先着順で年度途中に予算が終了する自治体も珍しくありません。4〜5月の新年度直後は申請が集中しやすいため、早めの行動を。申請から交付決定まで2〜4週間かかるのが一般的です。
民間団体の助成も視野に入れる
自治体の助成金と併用できる民間団体の制度もあります。公益社団法人日本動物福祉協会(JAWS)は全国対象で一律5,000円の助成を提供しており、1人あたり年間5頭まで申請可能。公益財団法人どうぶつ基金は「さくらねこ無料不妊手術事業」を展開しており、協力病院での手術を無料で受けられます。対象は主にTNR活動向けですが、飼い猫が対象になるプログラムを設けている時期もあります。
地域の動物愛護団体が独自の助成を出しているケースもあるため、「お住まいの地域名 + 猫 + 不妊手術 + 助成」で検索してみてください。
手術を受ける適切なタイミング
去勢・避妊手術の推奨時期は、犬猫ともに生後6ヶ月〜1歳が一般的です。
| 動物 | 推奨時期 | 理由・備考 |
|---|---|---|
| 犬(オス) | 生後6ヶ月〜1歳 | 大型犬は骨格成長を待って1歳以降にする判断も |
| 犬(メス) | 初回発情前(生後6〜8ヶ月) | 初回発情前の手術で乳腺腫瘍リスクが約0.5%に低下 |
| 猫(オス) | 生後6ヶ月前後 | マーキング行動が定着する前が望ましい |
| 猫(メス) | 生後6ヶ月前後 | 初回発情前の手術が理想的 |
犬のメスは、初回発情前に避妊手術を行うと乳腺腫瘍の発症リスクが約0.5%まで低下するという研究データがあります(Schneider et al.)。1回目の発情後は約8%、2回目以降は約26%と発情回数を重ねるごとにリスクが上昇するため、早期手術を推奨する獣医師が多い根拠はここにあります。
猫のオスはマーキング行動(スプレー)が始まる前に去勢を受けるのが望ましいとされています。一度習慣がついてしまうと、去勢後もしばらく行動が残ることがあるためです。
大型犬については骨格や関節の成長が完了するまで手術を遅らせた方がよいとする見解もあります。ゴールデンレトリバーやラブラドールレトリバーでは1歳〜1歳半まで待つケースが増えており、最適なタイミングはかかりつけの獣医師と相談して決めましょう。
手術で得られる健康面のメリットと術後の注意
去勢・避妊手術の最大の目的は望まない繁殖の防止ですが、健康面でも複数の効果が期待できます。
| 手術の種類 | 予防できる疾患 | 行動面の変化 |
|---|---|---|
| オスの去勢 | 精巣腫瘍、前立腺肥大 | マーキング減少、攻撃性の低下 |
| メスの避妊 | 子宮蓄膿症、乳腺腫瘍 | 発情期の鳴き声・落ち着きのなさが解消 |
子宮蓄膿症は避妊手術を受けていないメスに高い確率で発症する疾患で、中高齢期に突然発症し緊急手術が必要になります。緊急手術の費用は通常の避妊手術の3〜5倍(10万〜30万円)。若いうちに予定手術として受けておく方が、経済的にも合理的です。
術後の注意点としてはホルモンバランスの変化による体重増加があります。基礎代謝が10〜15%程度低下するとされ、手術前と同じ量のフードを与え続けると太りやすくなります。術後専用フードに切り替えるか、給餌量を1〜2割減らして調整するのが一般的な対応です。
全身麻酔のリスクについて心配する飼い主は多いですが、健康な若い個体であれば麻酔事故の発生率は0.05〜0.1%程度。術前血液検査で肝機能と腎機能を確認したうえで手術に臨めば、過度に心配する必要はありません。
費用を抑える3つの手段
手術費用をできるだけ抑えたい場合に、活用できる方法を整理しておきます。
1つ目は複数の動物病院から見積もりを取ること。同じ地域でも病院によって1万〜2万円の差があるのは珍しくありません。ただし安さだけで病院を選ぶのはリスクがあります。手術実績の豊富さ、術前検査の充実度、術後のフォロー体制も含めて比較してください。
2つ目は自治体と民間団体の助成金の併用。組み合わせれば手術費用の3割〜5割をカバーできるケースも。先着順で予算切れになる自治体が多いため、飼い始めた段階で助成制度の情報を集めておくのがおすすめです。
3つ目はペット保険の手術特約ですが、予防目的の手術は保険適用外とする保険会社が大多数。加入前に約款をよく確認してください。
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参考情報
この記事の手術費用の相場は、日本獣医師会「家庭飼育動物(犬・猫)の診療料金実態調査」(令和5年度)および複数の動物病院の公開料金表を参考にしています。助成金の金額は品川区・渋谷区・大田区・世田谷区・荒川区・名古屋市・京都市・福岡市・大阪市の各公式サイト掲載情報(2026年4月確認)に基づいています。日本動物福祉協会(JAWS)の2025年度助成事業情報は同協会公式サイトを参照しました。年度や予算状況によって金額・対象・条件が変更される場合があるため、最新情報はお住まいの自治体にご確認ください。乳腺腫瘍の発症リスクに関するデータは獣医学の学術論文(Schneider et al.)に基づいています。