地震や台風、水害。日本に住んでいる以上、災害のリスクは避けられません。東日本大震災では犬だけで約3,000頭以上が命を落とし、熊本地震では犬1,094頭・猫1,405頭が放浪状態で保護されました(環境省「被災動物対応記録集」)。数字を見ると、災害はペットにとっても深刻な脅威だとわかります。

環境省は「人とペットの災害対策ガイドライン」で同行避難を推奨していますが、避難所の受け入れ態勢は自治体ごとにばらつきがあり、飼い主側の備えが不十分だと同行避難がスムーズにいかないケースも少なくありません。この記事では、防災グッズの準備から避難先の選択、日頃のトレーニングまで、今すぐ始められる対策を整理します。

防災グッズは「命をつなぐ5日分」が基本

人間の防災リュックは用意していても、ペットの分は手つかずという家庭は多いのではないでしょうか。環境省のガイドラインでは最低5日分のフードと水を備蓄するよう推奨しています。東日本大震災や熊本地震では、物資の供給が安定するまで1週間以上かかった地域もありました。

カテゴリグッズ数量目安費用目安犬の場合の補足猫の場合の補足
食事フード(ドライ)5〜7日分体格に応じて量を調整。大型犬は7日分推奨普段のフードを厳守。猫は環境変化で食べなくなりやすい
食事1日500ml〜1L×5日分500円程度大型犬は1日2L以上必要な場合も500ml/日で十分なケースが多い
食事折りたたみ食器2個300〜800円シリコン製が軽量で扱いやすい同左
衛生ペットシーツ20枚以上500〜1,000円レギュラーサイズ20枚+ワイドサイズ数枚猫砂が手に入らない場合の代替にも
衛生排泄処理袋30枚以上1,500円前後BOS「うんちが臭わない袋」Sサイズ200枚入が便利同左
衛生ウェットティッシュ2〜3パック300〜600円足拭き・体拭き兼用同左
衛生簡易猫トイレ+猫砂1,000〜2,000円不要折りたたみトイレと3日分の猫砂
移動キャリーバッグ/クレート1個3,000〜15,000円中〜大型犬はクレート推奨上部が開くタイプだと出し入れしやすい
移動リード・首輪(予備)1セット1,000〜3,000円伸縮リードは避難時NG。固定リード推奨室内飼いでも避難時は必要
移動ハーネス1個2,000〜4,000円首輪が抜けるリスクを防ぐ。二重装着が理想猫用ハーネスは慣らすのに時間がかかる
情報迷子札常時装着500〜2,000円ハーネスに直接連絡先を記入できるタイプも首輪に取り付ける軽量タイプが向いている
情報ペットの写真(プリント)2〜3枚100〜300円スマホが使えない場合に捜索で役立つ同左
情報ワクチン接種証明書コピー1部狂犬病予防注射済票は原本を首輪に装着三種混合ワクチン証明書
その他常用薬7日分以上処方薬がある場合は多めに確保同左
その他タオル2〜3枚防寒・目隠し・敷物にクレートの目隠しにすると猫が落ち着く
その他洗濯ネット(大判)1〜2枚100〜300円不要パニック時の保定用。100円ショップで購入可
その他ガムテープ1巻100〜200円ケージの補修、掲示物の貼り付け等同左

キャリーバッグを除けば、3,000〜6,000円程度で一式揃います。個別に買いそろえる時間がない場合は、パッケージ化された防災セットを活用する方法もあります。

市販のペット用防災セット比較

商品名メーカー内容点数価格(税込)特徴
ペット用防災セット PBSI-15(犬用)/ PBSN-15(猫用)アイリスオーヤマ15点3,980円斜めがけバッグ付属。フードと水は自分で追加する方式
たすカルル犬用防災7点セットCalulu(カルル)7点10,780円(Mサイズ)折りたたみソフトケージ付き。旅行にも兼用可
たすカルル猫用防災9点セットCalulu(カルル)9点価格は公式サイト参照猫トイレ・猫砂スコップ含む猫特化仕様

アイリスオーヤマの15点セットはエントリーモデルとしてコスパが良く、2025年8月に発売された新商品です。ただし、フード・水・猫砂は含まれていないため、普段食べ慣れているものを自分で追加する必要があります。カルルのセットは折りたたみケージが含まれるぶん高価ですが、旅行やお出かけにも使い回せるのが利点です。

フードは必ず普段食べ慣れているものを備蓄してください。災害時はペットもストレスを受けており、慣れないフードで消化不良を起こしやすくなります。ローリングストック方式(普段のフードを少し多めに買い、古いものから使って補充する)で管理すれば、賞味期限切れを防げるうえ追加コストもかかりません。

マイクロチップと迷子対策。はぐれたときの「最後の命綱」

災害時にペットとはぐれるケースは想像以上に多く発生します。熊本地震では犬1,094頭、猫1,405頭が放浪状態で保護されましたが、元の飼い主に返還できたのは犬400頭、猫はわずか11頭でした(環境省「熊本地震における被災動物対応記録集」)。猫の返還率がここまで低いのは、首輪や迷子札をつけていない室内飼いの猫が多かったことが原因とされています。

2022年6月からは犬猫のマイクロチップ装着がブリーダーやペットショップなどの販売業者に義務化されました。すでに飼っているペットへの装着は努力義務にとどまっていますが、災害時の身元確認手段としてはもっとも確実な方法です。装着費用は動物病院によって異なりますが、3,000〜10,000円程度が相場で、登録料は別途300〜1,000円かかります。

マイクロチップは専用リーダーがないと読み取れないため、近隣住民が保護した場合は迷子札のほうが早く飼い主に連絡がつきます。迷子札は刻印タイプ(1,000〜2,000円)が経年劣化に強く、プリントが消えてしまう心配がありません。犬はハーネスに連絡先を直接書き込めるタイプ(ユリウスK9など)を使うと、首輪が外れても情報が残ります。

迷子対策で有効な組み合わせは、マイクロチップ + 迷子札 + ペットの写真(スマホとプリントの両方)の3点セットです。どれか一つが機能しなくても、別の手段で飼い主にたどり着ける確率が上がります。

避難先は3パターンで想定しておく

「避難所に行く」だけが避難ではありません。ペット連れの場合、自宅の安全性や避難所のペット受け入れ状況によって、現実的な避難先は3つに分かれます。過去の震災では、避難所がペットを受け入れなかったために車中泊を選んだ飼い主も多く、熊本地震では避難所51カ所のうちペットの屋内飼育が認められたのは15カ所にとどまりました(環境省調査)。

避難パターン内容メリットデメリット向いているケース
避難所への同行避難ペットと一緒に指定避難所へ移動自治体の支援を受けられる。物資の配給があるペットと同室で過ごせるとは限らない。周囲への配慮が必要自宅が危険で、避難所がペット受け入れ可能な場合
車中泊避難自家用車の中でペットと過ごすペットと同じ空間にいられる。他の避難者への気兼ねがない夏場は熱中症リスクが高い。エコノミークラス症候群のリスク車を所有していて、避難所にペットを持ち込めない場合
在宅避難自宅が安全であれば自宅にとどまるペットのストレスが最小限。普段の環境を維持できるライフライン途絶の可能性。救援物資を受け取りに行く必要がある自宅の耐震性に問題がなく、ハザードマップで浸水リスクが低い場合

車中泊避難を想定する場合、JAFは夏場の車内温度上昇に注意を呼びかけています。エアコンを切った車内は短時間で50度を超えることがあり、人間よりも体温調節が苦手な犬猫にとっては致命的です。車中泊を選ぶ際はエンジンをかけてエアコンを使い、こまめに外の空気を吸わせる対応が欠かせません。

事前にやっておくべきことは3つです。自治体のハザードマップで最寄りの避難所を確認する。その避難所のペット受け入れ方針を自治体に問い合わせる。避難所が使えない場合の代替先(親族宅、ペットホテル、動物病院、車中泊ポイント)をリストアップしておく。この3つを済ませておくだけで、発災時の判断スピードが大きく変わります。

東京都では「東京都防災アプリ」でペット対応避難所の情報を検索できます。自治体によっては防災マップにペット同伴可の避難所が明記されているため、まずはお住まいの市区町村のWebサイトを確認してみてください。

「同行避難」と「同伴避難」は別の概念

紛らわしい2つの用語を正確に理解しておくことも大切です。

種類内容ペットの扱い
同行避難ペットと一緒に避難所まで移動する行為そのもの避難所に着いた後、同じ空間で過ごせるかは別問題
同伴避難ペットと同じ空間で過ごせる避難形態飼い主と同室、またはペット専用スペースが用意されている

環境省が推奨しているのは「同行避難」、つまり避難時にペットを置き去りにしないことです。「同伴避難」を受け入れている避難所はまだ少数で、多くの場合ペットは屋外テントや別室に隔離されます。同伴避難が可能な避難所が最寄りにあるかどうかを事前に調べておくと、発災時の選択肢が広がります。

クレートトレーニングは「防災訓練」と考える

避難所でペットと過ごすには、クレートやキャリーバッグの中でおとなしくしていられることが前提条件になります。普段からクレートに慣れていない犬や猫は、突然閉じ込められるとパニックを起こし、鳴き続けたり暴れたりします。避難所で他の避難者から苦情が出ると、退去を求められるケースもあるため、日頃のトレーニングが避難生活の質を左右します。

トレーニングは段階を踏んで進めます。焦って無理にクレートに入れると、「怖い場所」として記憶されてしまい逆効果です。

ステップ内容目安期間
1クレートの扉を開けたまま、中におやつやタオルを置く。近づいたら褒める3〜5日
2自分から入ったら褒める。食事をクレートの中で取らせる1週間
3扉を閉めて数分待つ。静かにしていたらおやつで報酬1〜2週間
4扉を閉める時間を徐々に延ばす(5分→10分→30分→1時間)2〜4週間
5飼い主が見えない場所で過ごす練習。外出時にクレートを使う2〜4週間

犬用のクレートはリッチェルの「キャンピングキャリー」(4,000〜8,000円、サイズ展開が豊富)が丈夫さと持ち運びやすさのバランスがよい製品です。猫用はアイリスオーヤマの「エアトラベルキャリー」(3,000〜5,000円)が軽量で、上部の開閉ができるため出し入れしやすい構造になっています。

猫の場合は、キャリーバッグを普段からリビングに出しておき、中に入って寝る習慣をつけさせるのがポイントです。キャリーバッグが「病院に連れて行かれる道具」としてだけ認識されると、見るだけで逃げるようになります。中にお気に入りのブランケットを敷いておくと、安心できる場所として定着しやすくなります。

衛生管理は避難所生活のマナーに直結する

避難所ではペットの衛生状態が周囲とのトラブルに直結します。ワクチン未接種の犬猫が感染症を持ち込むリスクもあるため、日頃からの衛生管理が防災準備の一部と考えてください。

犬の場合は、狂犬病予防注射(法律で義務)と混合ワクチン(5種以上推奨)の接種を済ませておくこと。猫は三種混合ワクチンが基本です。ワクチン接種証明書のコピーを防災バッグに入れておくと、避難所で提示を求められた場合にスムーズに対応できます。

ノミ・ダニの駆除も忘れずに。避難所では多頭が密集するため、寄生虫が拡散するリスクが高まります。かかりつけの動物病院で定期的にフィラリア予防・ノミダニ駆除を行い、その記録も防災バッグに入れておくと安心です。

避難時の持ち出し順序。パニックでも動けるリストを作る

実際に避難するとき、パニック状態で何から手をつけるか迷わないように、持ち出し順序を決めておきます。この順番をプリントして玄関に貼っておくのも有効な方法です。

順番内容理由
1ペットにリード・ハーネスを装着はぐれ防止が最優先
2キャリーバッグにペットを入れる移動中の安全確保
3防災リュック(人間用)を背負う両手を空けるため
4ペット用防災袋を持つ人間の次に優先
5貴重品余裕があれば

猫の場合は洗濯ネットに入れてからキャリーバッグに入れると、パニック状態でも暴れにくくなります。災害時に興奮した猫をキャリーに直接入れるのは想像以上に大変で、引っかかれて怪我をする飼い主も少なくありません。100円ショップの大きめの洗濯ネットで十分なので、防災グッズに加えておいてください。

犬の場合は、首輪+リードだけだと引っ張った際に首輪が抜ける可能性があります。ハーネスとの二重装着が安全です。日頃からハーネスの着脱を練習しておくと、パニック状態の犬にも短時間で装着できるようになります。

中型犬・大型犬はキャリーバッグに入れられないため、リードとハーネスで一緒に歩いて避難することになります。普段の散歩で「ツケ」(飼い主の横を歩く)のトレーニングができていると、混乱した状況でも制御しやすくなります。

防災グッズの見直しは3月と9月に

防災グッズは一度準備して終わりではなく、半年に1回の見直しが必要です。タイミングを忘れないよう、3月(東日本大震災の月)と9月(防災の日がある月)にスマホのリマインダーを設定しておくのが現実的です。

チェック項目確認すること対応
フードの賞味期限消費期限が近くないか期限前に日常使いして補充(ローリングストック)
水の賞味期限長期保存水でも期限確認入れ替え
ペットシーツの劣化湿気で吸収力が落ちていないか新品に交換
常用薬の有効期限処方薬は期限が短いものもある動物病院で再処方
ペットの体重フード量の見直しが必要か増減に応じて備蓄量を調整
迷子札の情報電話番号や住所に変更はないか引越し後は必ず更新
ワクチン証明書最新のものか接種ごとにコピーを更新
マイクロチップ登録情報転居後に住所変更したか「犬と猫のマイクロチップ情報登録」サイトで変更手続き
クレートのサイズ成長期のペットはサイズアウトしていないかワンサイズ上に買い替え

ペットの体重や年齢が変われば、必要なフードの量や種類も変わります。子犬・子猫用と成犬・成猫用ではフードが異なりますし、シニア期に入れば投薬が増えることもあります。ペットの状態に合わせて防災グッズも更新していく意識が、いざというときの備えにつながります。

参考情報

記事内の統計データは環境省「東日本大震災における被災動物対応記録集」(2013年8月)および「熊本地震における被災動物対応記録集」(2018年3月)に基づいています。環境省「人とペットの災害対策ガイドライン」(2018年3月改訂版)および「災害への備えチェックリスト」(2021年3月)も参照しています。製品情報・価格は各メーカー公式サイトおよび主要ECサイトの掲載価格(2026年4月確認)を参考にしています。

ペットの防災準備は、グッズの備蓄・迷子対策・避難先の確認・クレートトレーニング・衛生管理の5つが柱です。費用はキャリーバッグを除けば3,000〜6,000円程度、市販の防災セットなら4,000〜11,000円で一式がそろいます。避難所だけでなく車中泊や在宅避難も選択肢として想定しておくと、発災時に冷静な判断ができます。

完璧に揃えなくても、フードと水の5日分、迷子札の装着、ワクチン証明書のコピーの3つから始めれば、何も準備していない状態とは大きく差がつきます。この記事を読んだタイミングで、一つでも手を動かしてみてください。

関連記事: ペットと引越しする完全チェックリスト。準備から新居まで 関連記事: ペットの熱中症は命に関わる。犬猫の症状チェックと応急処置の手順 関連記事: 停電時のペットの暑さ対策。夏の備えと応急処置