犬や猫は人間のように全身から汗をかいて体温を調節することができません。体温を下げる仕組みが限られているため、高温多湿の環境では短時間で熱中症を発症し、対処が遅れると命を落とすケースもあります。動物病院での熱中症の死亡率は約50%という報告もあり、受診した犬猫の半数が救えないという厳しい現実があります。

この記事では、犬と猫それぞれの熱中症の症状を段階別に整理し、応急処置の正しい手順と予防策をまとめました。

犬と猫の体温調節の違い

人間は全身に200〜500万個の汗腺を持ち、汗の蒸発で体温を下げます。一方、犬と猫の汗腺は肉球にしかなく、全身での発汗による冷却ができません。

項目
主な体温調節方法パンティング(口を開けた荒い呼吸)体を舐めて唾液の蒸発で冷却
汗腺の位置肉球のみ肉球のみ
正常体温38.0〜39.0度38.0〜39.2度
危険体温40度以上40度以上
臓器障害リスク41度以上で急上昇41度以上で急上昇

パンティングによる冷却は湿度が高い環境では効率が大幅に下がります。日本の夏は気温だけでなく湿度も高いため、ペットにとって熱中症リスクが非常に高い環境です。気温が28度でも湿度が80%を超えると、犬のパンティングによる冷却効率は半分以下に低下するとされています。

猫は犬と比べて暑さに強い傾向がありますが、それでも締め切った室内や車内では短時間で危険な状態に陥ります。猫は体調不良を隠す性質があるため、症状の発見が遅れやすい点にも注意が必要です。

熱中症の症状を段階別にチェック

早い段階で異変に気づくことが重症化を防ぐ最大のポイントです。犬と猫では症状の出方が異なるため、それぞれの特徴を知っておきましょう。

段階犬の症状猫の症状緊急度
初期激しいパンティング、大量のよだれ開口呼吸(口を開けてハアハア)注意
初期ふらつき、歩くのを嫌がる落ち着きがなくなる、よだれ注意
中期嘔吐、下痢、粘膜の充血嘔吐、ふらつき、耳が異常に熱い危険
中期目や歯茎が赤くなる横になったまま動かない危険
重度けいれん、意識消失、血便・血尿けいれん、意識消失、ぐったり緊急搬送

猫の開口呼吸は犬のパンティングと異なり、正常な状態ではほぼ見られない行動です。猫が口を開けて呼吸していたら、体温がかなり上昇した危険な状態だと判断してください。

歯茎の色も判断の手がかりになります。正常な犬猫の歯茎はピンク色ですが、熱中症では赤黒くなったり、逆に白くなったりします。歯茎を指で押して離したとき、2秒以内にピンク色が戻らなければ循環不全が起きている可能性があります。

応急処置の正しい手順

熱中症が疑われたら、以下の手順で速やかに対処します。覚えるべきポイントは「日陰・水・風」の3つです。

手順1 涼しい場所に移動する

エアコンの効いた室内や日陰にすぐ移動させてください。散歩中なら建物の日陰やコンビニの入口付近など、少しでも涼しい場所を探します。アスファルトの照り返しも体温上昇の原因になるため、犬を地面から離すことも意識しましょう。車内に避難する場合は先にエアコンで車内を冷やしてから乗せてください。停車中の車内温度は外気温より15〜20度高くなることがあるためです。

手順2 常温の水で体を冷やす

首まわり、脇の下、内股(太い血管が通っている部分)を重点的に冷やします。濡れタオルを体にかけ、うちわや扇風機で風を当てると蒸発冷却で効率よく体温が下がります。

水道水やペットボトルの水をそのまま体にかけるのも有効です。ホースで水をかけられる環境であれば、全身に水をかけながら風を送ると最も効率よく冷却できます。

手順3 水を少量ずつ飲ませる

意識がはっきりしていて自分で飲める場合のみ、少量ずつ水を与えます。一度に大量に飲ませると嘔吐する恐れがあります。意識がもうろうとしている場合は、誤嚥のリスクがあるため水を飲ませないでください。スポーツドリンクを2〜3倍に薄めたものも水分と電解質の補給に使えますが、あくまで応急処置として短時間の使用にとどめてください。

手順4 動物病院へ搬送する

応急処置と並行して動物病院に電話連絡し、搬送の準備をします。移動中も濡れタオルをかけて冷やし続け、車のエアコンは強めに設定してください。体温が39度台まで下がったら冷却のペースを緩めますが、動物病院への搬送は中止しないでください。外見上回復していても、体内では臓器にダメージが進行していることがあります。

熱中症の治療費は重症度によって大きく異なります。軽度であれば点滴と投薬で5,000〜15,000円程度ですが、入院が必要な中〜重度の場合は30,000〜100,000円以上になることもあります。

やってはいけないNG行動

NG行動理由
氷水や保冷剤を直接体に当てる急激な冷却で末梢血管が収縮し、逆に体内の熱がこもる
意識のない犬猫に水を飲ませる気管に水が入る誤嚥のリスクがある
「回復したから大丈夫」と受診しない外見上回復しても体内で臓器ダメージが進行している可能性がある
体温が下がるまで冷やし続ける過冷却で低体温になる危険。39度台まで下がったら冷却を緩める

保冷剤を使う場合は必ずタオルで包んでから当ててください。直接皮膚に当てると凍傷のリスクもあります。

熱中症になりやすい犬と猫の特徴

すべてのペットにリスクはありますが、特に注意が必要な条件があります。

リスク要因該当する犬種・猫種リスクが高い理由
短頭種パグ、フレンチブルドッグ、ペルシャ、エキゾチック鼻腔が狭くパンティング効率が低い
肥満全犬種・全猫種皮下脂肪が断熱材になり体内の熱がこもる
高齢7歳以上の犬猫体温調節機能の低下
子犬・子猫生後6か月未満体温調節機能が未発達
持病あり心臓病、呼吸器疾患を持つ犬猫体への負荷が大きい
被毛が厚いシベリアンハスキー、サモエド、長毛種放熱しにくい
黒い被毛黒ラブラドール、黒猫日光を吸収しやすい

短頭種は通常の犬種と比べて熱中症の発症リスクが2倍以上というデータもあります。フレンチブルドッグやパグは気温25度を超えたあたりから注意が必要で、夏場の管理には特に慎重になる必要があります。

季節別の予防策

室内の温度管理(通年で意識する)

夏場の留守番ではエアコンを必ず稼働させてください。設定温度は25〜27度が目安です。エアコンの故障に備え、犬猫が複数の部屋を行き来できる状態にしておくと安全性が上がります。温湿度計(500〜1,500円)を犬猫の生活する高さに設置して、室温をモニタリングする習慣をつけましょう。

締め切った室内は直射日光が当たらなくても短時間で気温が上昇します。30度を超える日にエアコンなしの室内で留守番させると、数時間で熱中症を発症するリスクがあります。スマートフォンで室温を確認できるスマート温湿度計(2,000〜5,000円)を導入しておくと、外出先からもペットの環境を監視できます。

散歩の時間帯の見直し(夏場)

時間帯アスファルト表面温度の目安散歩の可否
6時前後30〜35度安全に散歩できる
9時40〜45度注意が必要
12〜15時55〜65度散歩NG
18時以降35〜40度おおむね安全(日没後がベスト)

散歩前にアスファルトに手の甲を5秒間当てて確認する方法が簡単で確実です。5秒間触っていられない温度なら、犬の肉球にとっても危険な状態です。肉球をやけどすると治療に2〜3週間かかり、その間散歩ができなくなります。

水分補給の工夫と冷却グッズ

水飲み場は室内に2か所以上設置し、留守番中に水が切れないようにしてください。自動給水器(2,000〜5,000円)を使うと安心です。散歩にはペットボトルの水を必ず持参し、こまめに飲ませましょう。

夏場は氷を水に浮かべたり、ウェットフードを凍らせたシャーベット状のおやつを与えたりすると、水分摂取量を増やす工夫になります。冷感マット(2,000〜5,000円)やアルミプレート(1,000〜3,000円)を寝床に置くのも手軽な暑さ対策です。

車内放置は絶対にNG

「数分だけだから」と犬猫を車内に残すのは非常に危険です。外気温30度の日、車内温度はわずか15分で50度に達します。窓を少し開けた程度では車内温度の上昇はほとんど抑えられません。毎年、車内放置による熱中症でペットが命を落とす事故が報告されています。買い物やコンビニに寄る程度の時間でも、車内にペットを残すのは避けてください。

梅雨の時期も油断しない

意外と見落とされがちなのが梅雨時期のリスクです。気温が30度に達していなくても、湿度が80%を超えるとパンティングによる冷却効率が大幅に低下します。6月〜7月の曇りの日でも室内の温度と湿度の組み合わせ次第では熱中症が起こり得るため、湿度管理も含めたエアコンの稼働が推奨されます。

散歩後に犬が室内でいつまでもパンティングを続ける場合は、体温が十分に下がっていないサインです。涼しい部屋で休ませ、飲水を促してください。10分以上パンティングが続く場合は体温を測定し、39.5度を超えているようなら体を濡らして冷却を開始しましょう。

熱中症を起こした後の経過観察

熱中症から回復したあとも、48時間は注意が必要です。熱中症によるダメージは腎臓、肝臓、消化管、血液凝固系など複数の臓器に及ぶことがあり、治療後24〜72時間で遅発性の症状が出るケースがあります。帰宅後に血便や血尿、黄疸(歯茎や白目が黄色くなる)、極端な元気消失が見られたら、すぐに動物病院へ連絡してください。

一度熱中症を経験した犬猫は、体温調節の閾値が低下し、再発リスクが高まるとされています。経験者のペットは、翌年以降はより慎重な温度管理が必要です。

参考情報

記事内の情報は獣医学の一般的な知見および動物病院の公開情報に基づいています。症状が気になる場合は、かかりつけの動物病院にご相談ください。

まとめ

ペットの熱中症は予防が最優先ですが、発症した場合は初期症状の見極めと正しい応急処置が命を左右します。犬のパンティングの激化、猫の開口呼吸を見逃さず、「日陰・水・風」の3点セットで速やかに体温を下げてください。

応急処置で回復したように見えても、体内では臓器へのダメージが進行している可能性があります。熱中症が疑われたら必ず動物病院を受診しましょう。

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