犬を家族に迎えたら、まず取りかかりたいのがワクチン接種の計画です。狂犬病予防注射は狂犬病予防法で年1回の接種が義務づけられており、混合ワクチンは感染症から犬を守る役割を果たします。とはいえ「何種を選べばいいのか」「子犬と成犬で回数が違うのか」と迷う飼い主は少なくありません。この記事では、接種の時期・費用・副反応の対処法に加え、フィラリアやノミダニ予防も含めた年間カレンダーまでまとめています。

犬のワクチンは3種類に分かれる

犬のワクチンは、世界小動物獣医師会(WSAVA)のガイドラインに基づき「コアワクチン」「ノンコアワクチン」「法定ワクチン(狂犬病)」の3つに分類されます。

分類対象疾患接種の必要性感染時の主な症状
コアワクチン犬ジステンパーすべての犬に推奨発熱・鼻水・下痢・神経症状。致死率50〜90%
コアワクチン犬パルボウイルス感染症すべての犬に推奨激しい嘔吐・血便・白血球激減。子犬の致死率90%以上
コアワクチン犬伝染性肝炎(アデノウイルス1型)すべての犬に推奨発熱・嘔吐・肝臓障害。重症例は数日で死亡
コアワクチン犬アデノウイルス2型感染症すべての犬に推奨乾いた咳・鼻水。ケンネルコフの原因のひとつ
ノンコアワクチン犬パラインフルエンザドッグラン・保育園利用時に推奨咳・鼻水。混合感染で重症化しやすい
ノンコアワクチン犬レプトスピラ症山・川のアウトドアが多い場合に推奨発熱・黄疸・腎不全。人にもうつる人獣共通感染症
ノンコアワクチン犬コロナウイルス感染症生活環境に応じて判断嘔吐・下痢。パルボとの混合感染で重症化
法定ワクチン狂犬病法律で年1回義務神経症状・攻撃性・麻痺。発症後の致死率はほぼ100%

コアワクチンは生命に直結する重篤な感染症を防ぐもので、生活環境を問わずすべての犬に接種が推奨されています。ノンコアワクチンはドッグランや犬の保育園の利用頻度、キャンプ・川遊びの有無によって獣医師と相談しながら決めるのが一般的です。

レプトスピラ症はネズミや野生動物の尿を介して感染し、人間にもうつる人獣共通感染症(ズーノーシス)です。2024年のWSAVAガイドライン改定では、レプトスピラ流行地域において犬のコアワクチンに含めるべきとの方針が示されました。都市部でもネズミの多いエリアに住んでいる場合や、キャンプ・ハイキングに犬を連れていく機会がある場合は、接種を検討する価値があります。

混合ワクチンの種類と費用相場

動物病院で接種する混合ワクチンは、複数の病原体に対するワクチンを1本にまとめた製品です。日本国内ではゾエティス社の「バンガードプラス」シリーズやMSDアニマルヘルス社の「ノビバック」シリーズが広く使われています。

種類カバーする疾患推奨される犬費用相場(税込)
5種混合コアワクチン4種+パラインフルエンザ室内飼い中心で他の犬との接触が少ない犬5,000〜7,000円
6種混合5種+コロナウイルスドッグランに時々行く犬6,000〜8,000円
8種混合5種+レプトスピラ2型+コロナウイルスキャンプや川遊びを楽しむ犬7,000〜10,000円
9〜10種混合8種+レプトスピラ追加型山間部在住やアウトドア頻度が高い犬8,000〜12,000円

「種類が多いほど安心」と考えがちですが、ワクチンの種類が増えるほど1回あたりの費用が上がるだけでなく、副反応のリスクもわずかに高まります。室内飼い中心であれば5種で十分なケースも多く、不要なワクチンまで接種する必要はありません。かかりつけの獣医師に犬の生活パターンを伝え、最適な種類を選んでもらいましょう。

なお狂犬病予防注射は混合ワクチンとは別で、動物病院での接種費用は3,000〜3,500円程度です。集合注射会場では自治体ごとに料金が異なりますが、おおむね3,000円前後が相場です。いずれの場合も注射済票の交付手数料550円が別途かかります。

子犬のワクチン接種スケジュール

子犬は母犬から受け継いだ移行抗体(母乳を通じて得る免疫)が生後6〜16週にかけて徐々に減少します。移行抗体が体内に残っている間はワクチンの効果が十分に発揮されないため、抗体が消えるタイミングをカバーするよう複数回に分けて接種するのが原則です。

時期接種内容備考
生後6〜8週1回目の混合ワクチンペットショップ・ブリーダーで済んでいることが多い
生後10〜12週2回目の混合ワクチン移行抗体の減少に合わせて接種
生後14〜16週3回目の混合ワクチンWSAVAガイドラインでは16週齢以降の接種を推奨
生後91日以降狂犬病予防注射法律で義務。30日以内に市区町村への届出が必要
生後6ヶ月(26週齢)以降ブースター接種2024年WSAVAガイドライン改定で推奨時期が明確化

ペットショップやブリーダーから子犬を迎えた場合、1回目の接種が済んでいることがほとんどです。お迎え時にワクチン接種証明書を受け取り、次の接種時期を必ず確認してください。

散歩デビューの目安は3回目の混合ワクチン接種から2週間後です。それまでの期間は免疫が不完全なため、地面に降ろしての散歩やドッグランの利用は控えましょう。ただし社会化の観点から、抱っこで外の音やにおいに慣れさせることは獣医師も推奨しています。

狂犬病予防注射は生後91日以降に接種し、接種後30日以内に市区町村の窓口で犬の登録(初回のみ)と注射済票の交付を受ける義務があります。犬の登録手数料は3,000円で、注射済票の交付手数料550円と合わせて初回は3,550円ほどかかります。

成犬・シニア犬の接種スケジュールと判断基準

子犬期の接種プログラムとブースターが完了したあとは、定期的な追加接種で免疫を維持していきます。ただし年齢や体調によって接種間隔の考え方が異なるため、ここでは成犬とシニア犬に分けて整理します。

成犬(1〜7歳)の場合

WSAVAのガイドラインでは、コアワクチン(ジステンパー・パルボ・アデノウイルス)は3年に1回の追加接種で十分な免疫が持続するとされています。日本国内では年1回の接種を推奨する動物病院もまだ多く、方針は病院によってまちまちです。3年サイクルを採用している病院では、接種しない年に抗体検査(5,000〜8,000円程度)を受けて免疫の持続を確認する方法もあります。

ノンコアワクチン(レプトスピラなど)は免疫の持続期間が短いため、接種する場合は年1回が基本です。引越しで生活環境が変わったタイミング(都市部から山間部への転居、ドッグラン通いを始めた等)は、ワクチンの種類を見直す良い機会です。

シニア犬(7歳以上)の場合

シニア犬はワクチン接種による副反応のリスクが若い犬より高くなる傾向があります。10〜12歳以上では副反応の発現率が上がるというデータもあるため、接種の要否は慎重に判断する必要があります。

シニア犬で特に有効なのが抗体検査の活用です。血液検査でコアワクチンの抗体価を調べ、十分な免疫が残っていれば追加接種を見送るという判断ができます。抗体が残っている状態でワクチンを打つ「過剰接種」は、副反応リスクを不必要に高めるだけです。持病がある場合や体調が不安定な場合は、かかりつけの獣医師と相談して個別に方針を決めましょう。

狂犬病予防注射は年齢に関係なく毎年の接種が法律で義務づけられています。ただし獣医師が「接種により健康を害するおそれがある」と診断した場合は、猶予証明書を発行してもらい、市区町村に届け出ることで免除されます。

犬のワクチン費用と年間コストの目安

ワクチン接種は動物病院ごとに価格が異なるため、目安として以下を参考にしてください。

項目費用の目安(1回)年間コスト目安
5種混合ワクチン5,000〜7,000円年1回で5,000〜7,000円 / 3年に1回なら年あたり約2,000円
8種混合ワクチン7,000〜10,000円年1回で7,000〜10,000円
狂犬病予防注射3,000〜3,500円+交付手数料550円毎年必須で約3,500〜4,000円
抗体検査5,000〜8,000円ワクチンを3年サイクルにする場合の確認用
犬の登録(初回のみ)3,000円生涯で1回のみ

子犬期は混合ワクチンを3回接種するため、初年度だけで15,000〜30,000円程度がかかります。成犬以降は混合ワクチン+狂犬病予防注射で年間10,000〜15,000円が目安です。ペット保険ではワクチン接種そのものは補償対象外となるのが一般的ですが、接種後の副反応による治療費が補償される場合があります。

ワクチン接種の副反応と対処法

ワクチン接種後に副反応が出ることがあります。多くは軽度で1〜2日以内に回復しますが、まれに重篤な反応が起きるため、症状別の対応を把握しておくことが大切です。

程度主な症状発現の目安飼い主の対応
軽度元気がない・食欲低下・接種部位の腫れや痛み数時間〜翌日安静にして1〜2日様子を見る
中程度嘔吐・下痢・顔のむくみ(ムーンフェイス)・じんましん接種後2〜6時間動物病院に電話して指示を仰ぐ
重度(アナフィラキシー)呼吸困難・虚脱・けいれん・意識低下接種後30分以内が大半ただちに動物病院へ搬送

ムーンフェイスは目の周りや口元が急に腫れる症状で、見た目のインパクトが大きいものの、動物病院で抗ヒスタミン薬の投与を受ければ速やかに改善するケースがほとんどです。治療費は3,000〜5,000円程度が目安です。

最も警戒すべきアナフィラキシーは、接種後30分以内に発症する傾向があります。接種後はすぐに帰宅せず、病院の駐車場や待合室で30分ほど待機するのが安全です。過去にワクチンで副反応が出た犬は、次回接種時に必ずその旨を獣医師に伝えてください。ワクチンの銘柄変更や、事前にアレルギー反応を抑える薬を投与するなどの対応を検討してもらえます。

ワクチン接種前後の注意点チェックリスト

接種の効果を最大限に引き出し、副反応リスクを下げるために、以下のポイントを押さえておきましょう。

接種前に確認すること:

  • 犬の体調が万全か(下痢・嘔吐・食欲低下がないか)
  • 前回の接種で副反応が出ていないか
  • 他のワクチンとの間隔が2〜4週間以上空いているか
  • 混合ワクチンと狂犬病予防注射は同日接種しないのが原則

接種当日・接種後の過ごし方:

  • 激しい運動とシャンプーは接種後2〜3日間は控える
  • 散歩は短めに切り上げ、ドッグランの利用も避ける
  • 接種後30分間は動物病院の近くで待機する
  • 帰宅後は犬の様子を注意深く観察する

フィラリア予防との連携も考えておくと効率的です。フィラリア予防薬は蚊の活動期間(おおむね5〜12月)に月1回投与する必要があり、投与開始前に血液検査で感染の有無を確認します。春先にワクチン接種とフィラリア検査をまとめて受けると、通院回数を減らせます。

引越しで転居した場合は、狂犬病予防注射済票の届出先が変わるため、転居先の市区町村に犬の登録変更届を出す必要があります。届出期限は転居後30日以内で、手数料は無料の自治体がほとんどです。

犬の年間予防カレンダー

ワクチンだけでなく、フィラリア・ノミダニ・健康診断を含めた年間の予防スケジュールを月別にまとめました。地域や犬の年齢によって時期は前後しますが、大まかな目安として活用してください。

やること備考
1〜2月ノミダニ予防(通年投与の場合)暖房環境ではノミが越冬するため通年予防が理想
3月狂犬病予防注射の通知が届く自治体から届くハガキを確認
4月狂犬病予防注射+フィラリア検査春のまとめ受診がおすすめ。集合注射会場か動物病院で
5月フィラリア予防薬の投与開始蚊の活動開始に合わせて月1回投与スタート
6月混合ワクチン接種(年1回の場合)狂犬病注射から2〜4週間後が目安
7〜9月フィラリア+ノミダニ予防の継続夏はノミダニの活動が最も活発な時期
10〜11月健康診断(年1回)シニア犬は血液検査+画像検査を含む総合検診を推奨
12月フィラリア予防薬の最終投与蚊の活動終了後1ヶ月まで継続が原則

フィラリア予防薬の年間費用は、犬の体重や製品によって6,000〜18,000円程度です。投与開始前の血液検査は2,000〜4,000円が相場です。ノミダニ予防薬は月1,000〜2,000円程度で、経口タイプとスポットオンタイプがあります。

年間の予防医療費をすべて合計すると、小型犬で30,000〜50,000円、中型〜大型犬で40,000〜70,000円が目安です。感染症の治療費は数万〜数十万円に及ぶことも珍しくないため、予防は経済的にも合理的な選択といえます。

まとめ

犬のワクチン接種は、子犬期の3回接種と生後6ヶ月以降のブースターから始まり、成犬以降は生活環境に合わせた追加接種で免疫を維持する仕組みです。シニア犬では抗体検査を活用して過剰接種を避ける方法も選択肢に入ります。狂犬病予防注射は毎年の法定義務があるため、4〜6月の通知が届いたら忘れずに対応してください。

年間の予防医療費は3〜5万円程度ですが、感染症の治療費と比べれば大きな負担ではありません。ワクチンに加えてフィラリアやノミダニの予防も含めた年間スケジュールを、かかりつけの獣医師と一緒に組み立てていきましょう。

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参考情報

  • 世界小動物獣医師会(WSAVA)「犬と猫のワクチネーションガイドライン 2024年版」
  • 厚生労働省「狂犬病予防法」(昭和25年法律第247号)
  • 動物用医薬品等データベース(農林水産省 動物医薬品検査所)「バンガードプラス」「ノビバック」各製品情報
  • 各動物病院の公開料金表を参考に費用相場を記載(2025〜2026年時点)