クレートトレーニングは、犬にとって安心できる「自分だけの場所」を作るためのしつけです。閉じ込めるための道具ではなく、犬が自発的にリラックスできるスペースとして活用するのが正しい使い方です。

マンション暮らしでは、来客時や留守番中、災害時の避難など、クレートが役立つ場面が多くあります。犬のクレートトレーニングを段階的に進める方法を紹介します。

クレートトレーニングで得られるメリット

クレートに慣れている犬は、さまざまな場面で落ち着いて行動できます。

場面メリット
留守番安心できる場所があると、分離不安が軽減される
来客時興奮しやすい犬を安全に管理できる
車移動クレートに入れることで事故時のリスクを減らせる
動物病院入院時のストレスが軽減される
災害時避難所ではクレートでの生活が求められる
ホテル・旅行ペット可宿泊施設での就寝に役立つ
トイレトレーニング犬は寝床を汚したがらないため、トイレの成功率が上がる

環境省の「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」でも、同行避難時にはケージやクレートでの管理が前提とされています。避難所ではペットをクレートに入れることが求められるケースが多く、クレートに慣れていない犬は避難所生活自体が困難になります。2016年の熊本地震では、クレートに入れない犬を連れた飼い主が避難所に入れず、車中泊を余儀なくされた事例が報告されています。

クレートの選び方とサイズの基準

クレートにはいくつかの種類があり、用途に合わせて選びます。

種類特徴適した用途価格帯代表的な製品
プラスチック製ハードタイプ頑丈。航空輸送にも使える車移動、飛行機、防災5,000〜15,000円ペットメイト バリケンネル
金属製ワイヤータイプ通気性が良い。折りたたみ可能室内での普段使い4,000〜12,000円アイリスオーヤマ 折りたたみケージ
ソフトタイプ(布製)軽量。持ち運びやすい短時間の外出、旅行3,000〜8,000円リッチェル たためるドッグサークル

ペットメイトのバリケンネルはIATA(国際航空運送協会)基準に適合しており、飛行機での輸送にも使えるため、旅行や防災を重視するならハードタイプがおすすめです。Amazonでの実売価格はSサイズ(小型犬用)が6,000〜8,000円、Mサイズ(中型犬用)が8,000〜12,000円程度です。普段使いがメインなら、アイリスオーヤマの折りたたみケージ(Sサイズ4,000〜5,000円、Mサイズ5,000〜7,000円)が通気性もよく使いやすいでしょう。

サイズは、犬がクレート内で立ち上がって方向転換でき、伏せの状態で足を伸ばせる程度が適切です。大きすぎるとトイレトレーニングの効果が薄れ(一角をトイレにしてしまう)、小さすぎると犬がストレスを感じます。

犬のサイズクレートの目安サイズ対応犬種の例
超小型犬幅30×奥行45×高さ30cmチワワ、ヨークシャーテリア
小型犬幅35×奥行55×高さ35cmトイプードル、ミニチュアダックス
中型犬幅45×奥行65×高さ50cm柴犬、コーギー
大型犬幅60×奥行90×高さ65cmラブラドール、ゴールデンレトリーバー

サイズ選びの目安は、犬の体長(鼻先から尾の付け根まで)に5〜10cm足した長さ、肩までの高さに5cm足した高さです。成長途中の子犬には、仕切り板で内部のスペースを調整できるタイプが経済的です。体が大きくなるにつれて仕切りを動かし、最終的なサイズまで対応できます。

トレーニングの段階別手順

クレートトレーニングは、犬のペースに合わせて焦らず進めることが成功の鍵です。全体の所要期間は2週間から1か月程度が目安ですが、犬によってはそれ以上かかることもあります。

ステップ1 — クレートに興味を持たせる(1〜3日)

クレートをリビングに置き、扉を開けたままにします。扉は外しておくか、外側に全開で固定しておくと、犬がぶつかって怖がることを防げます。中におやつやお気に入りのおもちゃを入れて、犬が自発的に近づくのを待ちます。犬がクレートの入り口まで来たら褒め、中に入ったらさらに褒めておやつを追加します。

この段階では扉を閉めません。犬が「クレートに入ると良いことがある」と学習することがゴールです。クレートの上に毛布をかけて「巣穴感」を出すと、入りたがる犬もいます。柴犬やダックスフンドなど、狭い場所に入りたがる性質を持つ犬種はこの方法が特に効果的です。

ステップ2 — クレート内で食事をする(3〜7日)

食事の器をクレートの中に置き、クレート内で食べさせます。最初は入り口付近に器を置き、食べ慣れてきたら少しずつ奥に移動させます。犬が食事に集中しているタイミングで、そっと扉を閉めてみます。食べ終わったらすぐに扉を開けてください。

食事をクレート内で取る習慣がつくと、クレートに対するポジティブな印象が強化されます。

ステップ3 — 扉を閉める時間を延ばす(1〜2週間)

食事のとき以外にも、犬がクレートに入ったら扉を閉めて、静かに近くにいる時間を少しずつ延ばします。最初は30秒、1分、3分、5分と段階的に伸ばしていきます。

犬が吠えたり鳴いたりしたら、鳴きやむまで待ってから扉を開けてください。鳴いているときに開けると「鳴けば出してもらえる」と学習してしまいます。ただし、30分以上パニック状態が続く場合は前のステップに戻ってやり直す必要があります。

コング(Sサイズ770円、Mサイズ1,100円、Lサイズ1,650円前後)にピーナッツバター(無糖・キシリトール不使用のもの)を詰めて凍らせたものをクレート内で与えると、犬がおやつに集中している間にクレート内にいる時間を自然に延ばせます。コングは噛む力に応じてパピー用(柔らかめ)、レギュラー、ブラック(硬め・大型犬向け)の3種類があるため、愛犬に合ったものを選びましょう。

ステップ4 — 飼い主が部屋を離れる(2〜3週間)

犬がクレート内で落ち着いていられるようになったら、飼い主が部屋を離れる練習を始めます。最初は数秒だけ隣の部屋に行き、すぐに戻ります。戻ったときに犬が落ち着いていたら褒め、徐々に離れる時間を延ばします。

外出時のルーティン(靴を履く、鍵を持つなど)を織り交ぜながら練習すると、実際の留守番にスムーズに移行できます。帰宅後のリアクションは控えめにするのがポイントです。「ただいま!」と大はしゃぎで犬を出してしまうと、飼い主の帰宅が過剰に嬉しいイベントになり、不在時との落差がストレスの原因になります。

嫌がる犬への対処法と成犬からの始め方

クレートに入ることを強く拒否する犬もいます。その場合は、トレーニングのペースをさらに落として、ステップ1に多くの時間をかけてください。

クレートの中だけで与える特別なおやつを用意すると、モチベーションが上がることがあります。茹でたささみ、犬用チーズ、レバーペーストなど、普段のおやつよりワンランク上のものを「クレート専用ごほうび」にすると効果が出やすいです。「このおやつはクレートの中でしか食べられない」という特別感が動機づけになります。

過去にクレートで嫌な体験をした犬(長時間閉じ込められたなど)は、クレートに対するネガティブな記憶が強いことがあります。形や色の異なるクレートに変えるだけで抵抗が減ることもあります。保護犬を迎えた場合など、過去のトラウマが疑われるケースでは、ドッグトレーナーに相談することも選択肢です。訪問トレーニングであれば1回5,000〜8,000円程度で個別のアドバイスが受けられます。

成犬からクレートトレーニングを始める場合、子犬より時間はかかりますが十分に可能です。1〜3か月を見込んで、ステップ1から丁寧に進めてください。成犬は新しいものへの警戒心が強い反面、一度学習した内容は定着しやすいという特徴があります。

絶対にやってはいけないのは、犬を無理やりクレートに押し込むことと、罰としてクレートに入れることです。クレートが「嫌な場所」になってしまうと、トレーニングのやり直しに長い時間がかかります。

犬種別のクレートトレーニングのコツ

犬種の性格や気質によって、つまずきやすいポイントが異なります。

トイプードルやラブラドールなど人が好きな犬種は、飼い主が離れる段階(ステップ4)で苦戦しやすい傾向があります。分離不安の素因がある犬種は、ステップ3〜4に特に時間をかけてください。

柴犬や日本スピッツなど独立心の強い犬種は、自分のテリトリーに敏感なため、クレートを「自分の場所」と認識すると比較的スムーズに入ります。ただし無理強いへの反発が強いので、ステップ1の自発的なアプローチが特に重要です。

ダックスフンドやテリア系は、本来穴に入る習性を持つ犬種なので、クレートの受け入れ自体は早いケースが多いです。コングなど知育トイと組み合わせると、短期間で慣れることが期待できます。

マンションでのクレート活用法

マンション暮らしでは、クレートは日常の多くの場面で役立ちます。

夜間の就寝場所として使えば、犬の行動を安全に管理できます。マンションでは夜中に犬が部屋を歩き回ると、下の階への足音が気になることもあります。クレートで寝る習慣がつけば、この問題を解消できます。クレートの下にジョイントマット(ニトリ「やわらかジョイントマット」9枚セット599円)や防振マット(1,000〜3,000円、ホームセンターで入手可能)を敷いておくと、犬がクレートの中で動いたときの振動も軽減されます。

宅配便の受け取りや来客時に、一時的にクレートに入れておけば、玄関からの脱走防止にもなります。犬がクレートを自分の安全基地として認識していれば、来客で興奮することも減ります。

引越しの際にもクレートは大いに役立ちます。荷物の搬入出で玄関が開け放たれている間、犬をクレートで安全に管理できます。新しい環境でも「自分の場所」があることで犬の不安が軽減されるため、引越し先では慣れた毛布や飼い主のにおいがついた衣類をクレート内に入れておきましょう。

クレートトレーニングの注意点

クレートは安心できる場所であって、長時間の閉じ込めに使う道具ではありません。成犬でも8時間以上のクレート使用は推奨されていません。子犬の場合はさらに短く、月齢+1時間が目安とされています(生後3か月なら最大4時間)。

犬の年齢クレート連続使用の上限目安
生後2〜3か月3〜4時間
生後4〜6か月4〜5時間
生後6〜12か月5〜6時間
成犬(1歳以上)6〜8時間

クレート内で排泄してしまう場合は、閉じ込めている時間が長すぎるか、クレートのサイズが大きすぎる可能性があります。犬は本能的に寝床を汚したがりませんが、我慢の限界を超えればやむを得ず排泄します。トイレの失敗が続く場合は時間設定を見直してください。

クレートトレーニングがどうしてもうまくいかない場合や、犬が極度のパニックを示す場合は、分離不安などの行動学的な問題が隠れていることもあります。かかりつけの動物病院や行動学専門の獣医師に相談してください。

参考情報

記事内の製品情報・価格はAmazon・楽天市場等の主要ECサイト掲載価格(2026年4月確認)を参考にしています。トレーニング方法は獣医行動学の一般的な知見および日本盲導犬総合支援センター等の公開情報に基づいています。犬の行動に不安がある場合は、かかりつけの動物病院にご相談ください。

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