「避妊手術は早いほうがいい」と聞いたものの、具体的にいつ受けさせればいいのか、費用はどのくらいかかるのか。初めて猫を迎えた飼い主にとって、手術のタイミングは大きな悩みどころです。完全室内飼いであっても、手術を受けることで病気の予防や問題行動の軽減といった恩恵は十分にあります。
この記事では、手術に適した月齢から費用、自治体の助成金、術後のケアまで、判断に必要な情報を一通りまとめました。
手術の適切な時期
猫の去勢・避妊手術は、初めての発情が来る前に行うのが一般的な推奨時期です。
| 性別 | 推奨時期 | 初回発情の目安 | 体重の目安 |
|---|---|---|---|
| オス(去勢) | 生後6〜7か月頃 | 生後6〜10か月頃 | 2.5kg以上 |
| メス(避妊) | 生後5〜6か月頃 | 生後5〜9か月頃 | 2.0kg以上 |
メス猫の場合、初回発情前に避妊手術を行うと乳腺腫瘍のリスクが約90%低減するとされています。発情を1回経験すると低減効果は約86%、2回以上経験するとさらに下がっていくため、タイミングが大きく意味を持ちます。猫の乳腺腫瘍は約80〜90%が悪性とされており、犬の乳腺腫瘍(悪性率約50%)と比べて深刻度が高い点も覚えておきたいところです。
オス猫については、スプレー行為(尿マーキング)が習慣化する前の去勢が効果的です。一度習慣として定着すると、手術後もスプレーが続くケースがあります。発情前であれば、術後にスプレーが止まる確率はかなり高くなります。スプレー行為は壁や家具に尿を吹きかける行動で、独特の強い臭いが染みつくため、マンション暮らしでは特に早めの対応が求められます。
生後6か月より前の「早期手術」は安全か
保護猫団体などでは生後2〜3か月で手術を実施することがあります。アメリカでは2000年にカリフォルニア州がシェルターからの譲渡時に不妊手術を義務付ける法律を施行し、生後2か月の子猫にも手術が行われるようになりました。
約2,000頭の犬猫を対象にした研究では、早期手術による短期的な合併症率や死亡率は従来の時期に行った手術と差がなかったと報告されています。また、生後24週未満で不妊手術を受けた猫と24週以降に受けた猫を比較した調査でも、排尿の問題行動や攻撃性に差は見られませんでした。
とはいえ、早期手術に対応していない病院もあるため、かかりつけ医と相談のうえ時期を決めるのが確実です。体重が手術に耐えられる基準(一般的に1.0〜1.5kg以上)に達しているかどうかも判断材料になります。
メリットとデメリット
オス猫の去勢手術で期待できること
去勢手術により、スプレー行為や放浪行動が減り、他の猫への攻撃性が低下する傾向があります。精巣腫瘍の予防にもなるため、健康面でもメリットがあります。室内飼いの場合、脱走時に外で繁殖してしまうリスクを防ぐ点も見逃せません。
未去勢のオス猫は発情期に夜鳴きが激しくなったり、落ち着きがなくなったりすることがあります。マンション暮らしでは夜鳴きが近隣トラブルに発展するケースも報告されており、生活環境の面からも去勢のメリットは大きいといえます。
メス猫の避妊手術で期待できること
望まない妊娠の防止に加え、乳腺腫瘍のリスク低減、子宮蓄膿症の予防が大きな利点です。子宮蓄膿症は未避妊の高齢猫に多い病気で、発症すると緊急手術が必要になり、体力の落ちた状態での全身麻酔は若い頃よりリスクが高くなります。緊急の子宮蓄膿症手術は80,000〜200,000円と高額になることが多く、若いうちの予防手術(25,000〜45,000円)とは費用面でも大きな差があります。
発情期の鳴き声やストレスがなくなることも、猫と飼い主の双方にとって大きなメリットです。メス猫の発情期は2〜3週間の周期で繰り返されることがあり、その間の絶え間ない鳴き声は飼い主にとってかなりの負担になります。
デメリットと注意点
全身麻酔のリスクはゼロではありませんが、健康な若い猫であれば麻酔事故の確率は0.1%未満とされています。事前の血液検査で肝臓や腎臓の数値を確認し、麻酔に耐えられる状態かどうかを判断するのが一般的な流れです。術前検査の費用は3,000〜5,000円程度で、心電図やレントゲンまで含めると5,000〜10,000円になる病院もあります。
術後はホルモンバランスの変化で太りやすくなるため、食事量の見直しは必須になります。基礎代謝が15〜25%低下するとされており、手術前と同じ量を食べ続けると確実に体重が増加します。避妊・去勢後の猫向けに設計されたフード(ロイヤルカナンの「ステアライズド」やヒルズの「避妊・去勢後用」など)も各メーカーから出ているので、体重が増え始めたら早めに切り替えを検討してください。
手術当日の流れ
手術当日のスケジュールは、おおむね以下のように進みます。
| 時間帯 | 内容 |
|---|---|
| 前日の夜 | 夜9時以降は絶食。水は当日朝まで可とする病院が多い |
| 当日朝 | 動物病院へ連れていく |
| 午前中 | 術前検査(血液検査、心電図など) |
| 日中 | 手術実施。オスは15〜30分、メスは30〜60分程度 |
| 術後 | 麻酔からの覚醒を確認し、数時間の経過観察 |
| 夕方〜翌日 | 退院。日帰りの病院もあれば、1泊入院の病院もある |
オス猫の去勢は陰嚢を小さく切開して精巣を摘出する手術で、傷口が小さく日帰りが基本です。メス猫の避妊は開腹して卵巣(または卵巣と子宮の両方)を摘出するため、やや負担が大きく1泊入院を推奨する病院もあります。
絶食の指示は必ず守ってください。胃に食べ物が残った状態で麻酔をかけると、嘔吐物が気管に入る誤嚥のリスクがあります。当日朝に猫が水を飲んでしまった場合は、病院に連絡して指示を仰いでください。
腹腔鏡手術という選択肢
近年は腹腔鏡を使った避妊手術に対応する病院も増えてきました。お腹に3〜5mmほどの穴を2〜3か所開け、カメラと器具を挿入して手術を行う方法です。
開腹手術と比べると傷が小さく、臓器への負担や術後の痛みが軽減されるのが特徴で、日帰りできるケースがほぼ100%とされています。ただし費用は開腹手術より2万円ほど高くなり、対応している病院も限られます。費用の目安は7〜10万円程度です。痛みへの配慮を重視する場合は、かかりつけ医に腹腔鏡の対応可否を確認してみるとよいでしょう。
費用の目安
一般的な開腹手術の費用相場は以下のとおりです。
| 項目 | オス(去勢) | メス(避妊) |
|---|---|---|
| 手術費用 | 10,000〜25,000円 | 20,000〜35,000円 |
| 術前検査(血液検査など) | 3,000〜5,000円 | 3,000〜5,000円 |
| 薬代(抗生物質・鎮痛剤) | 1,000〜3,000円 | 1,000〜3,000円 |
| エリザベスカラーまたは術後服 | 500〜4,000円 | 500〜4,000円 |
| 合計の目安 | 15,000〜30,000円 | 25,000〜45,000円 |
動物病院は自由診療のため、同じ手術でも病院によって数万円の開きがあります。事前に複数の病院で見積もりを取るのも一つの手です。安さだけで病院を選ぶのではなく、術前検査の内容、麻酔のモニタリング体制、術後のフォローアップ体制も確認してください。
自治体の助成金制度を活用する
猫の不妊・去勢手術に対して助成金を設けている自治体は少なくありません。金額や条件は自治体ごとに異なりますが、数千円から1万円程度の補助が受けられるケースが多いです。
東京23区の助成金例
| 自治体 | 去勢(オス) | 避妊(メス) | 備考 |
|---|---|---|---|
| 新宿区 | 4,000円 | 2,500円 | 飼い猫が対象。飼い主のいない猫は別枠で増額 |
| 大田区 | 6,000円 | 12,000円 | 飼い猫が対象。区の助成金として支給 |
| 足立区 | 2,000円 | 4,000円 | 飼い猫が対象。飼い主のいない猫は増額あり |
| 練馬区 | 助成あり | 助成あり | 指定獣医師での手術が条件。事前申請が必要 |
大阪市の助成制度
大阪市では多頭飼育崩壊の防止を目的とした飼い猫の不妊・去勢手術助成事業を実施しています。該当する場合は市のホームページで最新情報を確認してください。
全国規模の助成事業
公益社団法人日本動物福祉協会(JAWS)では、年度ごとに不妊去勢手術の助成事業を行っており、一律5,000円の助成金が支給されます(1人あたり年間5頭まで)。自治体の助成と併用できる場合もあるため、あわせて検討する価値があります。
助成金は年度の予算上限に達すると受付終了になることが多いため、手術を決めたら早めに申請しておくのがおすすめです。お住まいの自治体のホームページで「猫 不妊 助成金」と検索すると、最新の情報が見つかります。申請には獣医師の証明書が必要になるケースがほとんどなので、手術を受ける病院に助成金利用の旨を事前に伝えておくとスムーズです。
術後のケア
手術後は1週間ほど安静に過ごさせることが大切です。とくにメス猫は開腹手術のため、傷口が安定するまで激しい動きを避けさせたいところです。
傷口の保護
傷を舐めたり引っかいたりしないよう、エリザベスカラーか術後服を着用させます。猫はエリザベスカラーを嫌がることが多く、水やフードが食べづらくなったり、トイレがうまく使えなくなったりするケースがあります。
こうした問題を軽減できるのがボディスーツ型の術後服です。代表的な製品として、full of vigor(フルオブビガー)の「エリザベスウエア」があります。動物病院と共同開発された製品で、猫の動きを妨げずに傷口をカバーできる設計になっています。価格は3,000〜5,000円程度で、楽天やYahoo!ショッピングなどの通販サイトで購入可能です。サイズは仔猫から大きめの成猫まで5段階で用意されているので、胸囲を測ってから選ぶとフィットしやすくなります。
食事の再開と体重管理
食事は手術当日の夜から少量ずつ再開するのが一般的です。麻酔の影響で食欲が戻るまで1〜2日かかる猫もいますが、3日以上食べない場合は動物病院に連絡してください。猫は24時間以上の絶食で肝リピドーシス(脂肪肝)を発症するリスクがあるため、食欲の回復が遅い場合は早めの対処が必要です。
術後2〜3週間も経てば体調は安定してきますが、ここから気をつけたいのが体重の増加です。ホルモンバランスの変化で基礎代謝が落ちるため、手術前と同じ量のフードを与えていると確実に太ります。術後1か月を目安に体重を測り、増えているようなら避妊・去勢後用のフードへ切り替えるか、給餌量を1〜2割減らすといった調整が必要です。
抜糸と術後チェック
抜糸が必要な場合は術後7〜10日目に通院します。最近は体内で自然に溶ける吸収糸を使う病院も増えており、その場合は抜糸不要です。いずれの場合も、傷口の赤み・腫れ・膿がないかを毎日チェックし、異常があれば早めに受診してください。術後3日目あたりに傷口周辺が軽く赤みを帯びることがありますが、これは正常な治癒過程です。赤みが増す、浸出液が出る、猫が傷口をしきりに気にするといった変化がある場合は受診してください。
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参考情報
記事内の情報は獣医学の一般的な知見および動物病院の公開情報に基づいています。症状が気になる場合は、かかりつけの動物病院にご相談ください。